カール・ベームは、20世紀半ばに主流だったモーツァルトの音楽を深く、重厚に、力強く表現しています。曲の「深刻さ」や「壮大さ」を重視する古き良き時代の演奏の一つの到達点です。ベームの解釈はテンポが安定していて、感情に流されない頑丈な建物のような強さがあります。特に②の最後の盛り上がりは見事な構成力です。現代ではモーツァルトが生きていた当時の「ピリオド演奏」が主流なので、それと比べると全体的にゆったりとしすぎており、特にダンスの曲であるメヌエット（各曲の第3楽章）などは重くてとても踊れません。VPOが昔使っていたポルタメント（音と音を滑らかにつなぐ奏法）が、現代のモーツァルト演奏ではほとんど使われなくなっています。ゆえにこの演奏で聴くと、「ロマンチックすぎる」　と感じられます。また彼の若い頃の演奏に比べて、少し活気や勢いが失われ落ち着きすぎています。昔ながらの重厚で美しいモーツァルトを聴きたい人には、最高の歴史的名盤です。 モーツァルト ①交響曲第40番 ト短調 K.550 ②交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」 カール・ベーム指揮ウィーン•フィルハーモニー管弦楽団 録音：1976年、ムジークフェラインザール、ウィーン DG国内盤（1993年製造）