1980年代初頭、ドミンゴはすでに世界のオペラ界の頂点に立つ一方で、メキシコ育ちの歌手として、ラテンアメリカ音楽に強い関心を持ち続けており、1981年にブエノスアイレスでにおけるこの録音が実現した。伴奏は当時の一流タンゴ楽団を率いたロベルト・パンセーラ楽団で、すべてパンセーラの新しい編曲による。ドミンゴの柔軟で温かみのあるテノールは、タンゴの濃厚な哀愁や情熱にうまく適合しており、オペラ歌手が単にクラシック的に歌うのではなく、ラテン文化への自然な親近感が感じられる。しかし一方では「声が美しすぎてタンゴの泥臭さが薄れる」という批判もあったが、多くはその格調の高さと音楽的誠実さを称賛した。ドミンゴの多才さと真摯さを示す名盤として世界的に評価されている。 また「クラシック歌手がポピュラー音楽を歌う」という企画の先駆けともなり、のちの彼のクロスオーバー路線（ラテン・アルバム、ボレロ集、ポピュラーとの共演企画）の基盤となった。 プラシド・ドミンゴ（テノール） ①フィリベルト：カミニート（小径） ②コビアン：ノスタルヒアス（郷愁） ③ガルデル：ボルベール（帰りゆく） ④O.プレセド：いとしいお前（ビダ・ミア） ⑤ガルデル：わが懐かしのブエノス・アイレス ⑥同：エル・ディア・ケ・メ・キエラス（想いのとどく日） ⑦モレス：ウノ ⑧トロイロ：マリア ⑨フィルボ：エルマ・デ・ボエミオ（漂泊の魂） ⑩ガルデル：クエスタ・アバーホ（下り坂） ロベルト・パンセーラ指揮タンゴ・オルケスタ 録音：1981年、ボリグラム・スタジオ、ブエノスアイレス DG国内盤（1997年製造）