このオペラは作曲者の死後色々な事情で大幅な改訂（改悪？）がたびたびおこなわれたため、さまざまな版が混在していることが、観る人の戸惑いの元にもなり、またある意味では大きな楽しみのひとつにもなっている作品です。このディスクで楽しむことのできる上演も、できるだけ作曲者本来の意図に近いものを復活させようという試みが随所に見られる上演で、他の上演との相違点を楽しむだけでも、まず一見の価値ありといえます。特に、冒頭と終結部に出てくるミューズが、独立した人格を与えられた形で登場してくるところなど、単に珍しいというだけでなく、この物語全体を非常に感動的なものにすることに一役買っています。さらに、オランピアの傑作な演技や、有名な「舟歌」の場面での地味ながら大がかかりな舞台装置など、随所に凝った演技や演出が見られ、全体として非常に楽しめる上演になっています。また主役を務めるシコフは、失礼ながら少々頼りない印象のその風貌が、ホフマンのイメージにぴったりで、はまり役となっています。贅沢を言うとすれば、オーケストラのひびきにやや厚みが欠けて物足りないように思える部分が多々あるということが多少不満といえる点でしょうか。